東京高等裁判所 昭和28年(う)580号 判決
被告人 成塚きく
〔抄 録〕
ところで、昭和二四年政令第三八九号連合国占領軍財産等収受禁止令は、昭和二〇年勅令第五四二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件にもとずく政令であり、この勅命第五四二号が日本国憲法の下においても合憲性を有することは、すでに、最高裁判所判決(昭和二三年六月二三日大法廷)の示すとおりであるが、わが国の、降伏条項の誠実な実施は、降伏文書にもとずく法律上の義務の履行であるから、右勅令の委任によつて制定された右禁止令も亦合憲性を有することは、論を俟たない所である。しかして、右勅令第五四二号は昭和二七年法律第八一号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律によつて、日本国との平和条約の最初の効力発生の日(すなわち昭和二七年四月二八日)から廃止されることになつたが、右禁止令はこの法律第八一号によつて、同日から起算して一八〇日間に限り、法律としての効力を有するものとされ、次いで昭和二七年法律第一三七号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸法令の措置に関する法律によつて同年五月七日に廃止されることになつたとはいえ、この法律第一三七号の第三条において「この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお、従前の例による」と規定されているのであるから、原判決が昭和二六年三月中旬頃の犯行たる被告人の原判示事実に対し前示禁止令を適用して被告人を処断したとて、何等咎むべき筋合ではない。所論は、前示禁止令をもつて憲法第二九条に反するとか、該禁止令は日本国との平和条約の効力発生の日以後は当然無効であるとか、右法律第一三七号の第三条の規定は憲法第三九条に規定する事後立法禁止の原則に反するとかいうのであるが、いずれも法理論的根拠を欠く独自の見解というの外ないのであつて、前示禁止令と立法の形式を異にする昭和二五年政令第三二五号占領目的阻害行為処罰令の平和条約効力発生の日以後における効力に関する世上の紛議を援引して、その主張の裏付けとしようとするがごときは、むしろ、事柄の本質に対する理解を欠くとする譏を免れないうらみがあるようである。従つて、論旨第一点は理由ないものとして排斥するの外はない。